大判例

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大阪地方裁判所 昭和45年(行ク)7号 決定

申立人 桜井宗五郎

被申立人 大阪府公安委員会

訴訟代理人 川本権祐 外一五名

主文

一、本件申立てを却下する。

二、申立費用は申立人の負担とする。

理由

一、申立人の申立ての趣旨

申立人がした別紙一のうちの集団示威運動(行進)目録記載にかかる昭和四五年三月一二日付許可申請について、被申立人が同月一三日付でした不許可処分の効力を、本案判決確定に至るまで停止する。

との裁判を求める。

二、申立ての理由

別紙一記載のとおり。

三、被申立人の意見

別紙二、三記載のとおり。

四、当裁判所の判断

本件疎明によれば、申立人は、安保万博粉砕共闘会議の代表委員であるが、昭和四五年三月一五日の万国博公開初日に、右会議に結集している各団体の所属員を中心として、安保万博体制反対の趣旨を広く内外の人々に訴えるため、参加人員一、〇〇〇名を予定して、北大阪急行電鉄万博中央口駅北側タクシー乗降場より万博会場周辺を経て、京阪神急行電鉄南千里駅ガード下に至るまでの経路で、集団示威行進を行なうべく計画し、同月一二日被申立人に対して、吹田市条例第九九号(行進及び集団示威運動に関する条例)二条に従い、別紙四に記載のとおりの集団示威運動(行進)の許可申請をしたのに対し、被申立人は同月一三日、仮に集団示威行進を許すとすれば、万国博業務の円滑な運営を阻害するとともに、極端な雑踏による重大な事故の発生、広域にわたる交通の大混乱とこれに伴う交通事故発生の危険の増大は必至であり、万国博に来場する観客、通行者および集団示威行進に参加する者等の生命身体の危険も予想され、まさに公共の安全に差し迫つた危険を及ぼすことが明らかであるということを理由に、右条例四条一項に従い、不許可の処分をしたことが認められ、また本件記録によれば、申立人は同月一四日被申立人を被告として当裁判所に対して、本件不許可処分の無効確認または同処分の取消しを求める訴え(当裁判所昭和四五年(行ウ)第一九号)を提起したことが認められる。

右の事実によれば、本件執行停止の申立ては、集団示威行進の本質にかんがみ、処分により生ずる回復困難な損害を避けるため緊急の必要があるものと認めるのが相当である。

ところで、本件疎明によれば、申立人が主催する本件集団示威行進に参加するとみられる諸団体が、昭和四四年三月一五日より昭和四五年三月一〇日までの間に万国博に反対する趣旨で大阪市内または万国博会場附近で行なつた集団示威行進は合計一〇件あるが、いずれの場合も蛇行行進をして警察官による規制を受けていること、万国博開催初日である昭和四五年三月一五日には万国博会場およびその周辺に約六〇〇、〇〇〇人の入場者と五二、〇〇〇台の車両の集中が予想されること、申立人が本件集団示威行進の集合場所に予定している北大阪急行電鉄万博中央口駅北側タクシー乗降場は七二〇平方メートルの広さしかなく極めて狭隘であることがそれぞれ認められる。右の事実に、更に本件疎明によつて認められる、万国博会場周辺の諸交通機関および道路交通の状況等をも考慮にいれて判断すると、本件集団示威行進が、仮に予定どおり行なわれるとすれば、極めて容易に蛇行行進の形態をとつて行なわれることが予測され、そうなれば、これによる道路交通の渋滞混乱が発生することが必至であつて、万国博会場およびその周辺に大きな混乱を惹き起こすことが明らかであり、更にこの混乱が大阪中央環状線を通じて名神高速道路、中国縦貫自動車道、新御堂筋線、その他国道一七一号線等の主要幹線道路にも波及する虞れが多分にあり、そうなれば、北大阪を中心とする道路における一般交通がいちぢるしく阻害されることになり、これが原因となつてこの地方の社会生活および経済活動に重大な影響が生ずるものと認めざるを得ない。

そうすると、本件申立ては、行政事件訴訟法第二五条三項にいう、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき、に該当すると認めるのが相当である。

よつて、申立人の本件申立ては理由がなく失当であるから、これを却下し、申立費用の負担について、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 日野達蔵 喜多村治雄 南三郎)

(別紙一)

申立の理由

一、行政処分の存在

申立人は、安保万博粉砕共闘会議の代表委員として、同会議に結集している各団体の所属員を中心として、昭和四十五年三月十五日の万国博公開初日に、安保万博体制反対の趣旨を広く内外の人々に訴えるため、大阪府公安委員会に対して、別紙集団示威運動(行進)許可申請目録記載の昭和四十五年三月十二日付許可申請をしたところ、同公安委員会は、同月十三日付をもつて、不許可処分とした。

申立人は、憲法第二十一条によつて保障された表現の自由の一環として、自らの思想、信条の表現の手段として自由に集団示威運動等のデモをなし得べき権利を本来的に有するものであつて、被申請人の行政許可をまつてはじめてデモをする権利を享受し得るものではない。もともと、吹田市条例九十九号「行進及び集団示威運動に関する条例」(以下公安条例という)は、以下にのべるとおり憲法二十一条に違反し、また、本件不許可処分も違憲違法たるを免れず、本件デモを全面的に禁止する不許可処分は、おそらく吹田市公安条例制定以来、最も不当な事例である。

二、吹田市公安条例の違憲、無効性

(一) 吹田市条例第九十九号「行進及び集団示威運動に関する条例」(昭和二十四年四月二十六日制定)(以下、吹田市公安条例という)が、行進若くは、集団示威運動(以下デモという)を一般的、包括的、全面的に禁止し、政府の一行政機関にすぎない「公安委員会」が許可したときに限つて、これを解除事件として初めてデモをなし得ると規定するのは、表現の自由を保障し、検閲を禁止し、表現の事前の抑制を否定した憲法第二十一条に違反するので、同条例は無効である。

(二) 表現の自由は、人民の人民による政治、即ち民主主義の根幹をなし、憲法体系上の基本的人権の中でも、最も優越的地位を占め、これを制約する立法は許されず、少なくとも、表現の自由の本質を阻害する事前の抑制は、許されない。表現手段のうちでも、ラジオ、テレビ等マスメデイアを自由に駆使し得ない一般大衆に残された唯一の効果的な大衆伝達の方法であるデモ権は、それ自身重要な表現手段として、憲法第二十一条によつて保障されている。(最判、昭和二十九年十一月二十四日、大法廷、刑集八巻十一号一八六八頁)

(三) 道路を通行するデモについては、それが集団であるが故に、交通の妨げになる可能性があるという点から、特別の規制に服せしめる必要性があるとの説もある。しかし、元来、道路は、ひとり交通のためにのみあるのではなく、本来、市民が自由に語り、集り、又は、祭を祝うためにも使用できるものである。ひるがえつて交通の点からみても、自動車が一台道路を走行すれば、数平方メートルも占拠して、反射的にその分だけ他人の道路使用の利益を奪うのに比し、デモの構成員個々が、道路を占める割合は、数分の一にすぎない。道路は、本来だれもが自由に通行し得るものであり、それが一人で通行するか、複数で通行するか、組織的な集団として歩くか、無秩序な群衆として歩くかによつて取締の強弱を変える必要はない。(ばらばらの無自覚的な個人の集合か(群衆)、意識的に組織されたデモかによつて差別する思想は、主体的な市民の政治参加をおそれる反民主主義思想にほかならない。)意識的に組織されて集団的に示威しつゝ通行するデモについてだけ許可等の特別の制約を課する立法は、それ自体で違憲無効であり、この点から吹田市公安条例も、文面上違憲無効であること明らかである。

(四) 仮に、デモに対する制約が是認されるとしても、デモの表現手段としての重要性に鑑み、これに対する規制はあくまで必要にしてやむを得ない最少限度にとどまらなければならないことはもとより、憲法第二十一条が、事前の検閲すなわち、政府、行政機関の単なる危険性の判断だけで、表現の自由を事前に制限することを禁止し、表現の自由に対する規制は、具体的法益の侵害が、生じた後に司法的手続によつて行なうにとどめている趣旨に鑑みても、思想表現手段としてのデモに対する制約と禁止は、他人の生命、身体、重要な財産に対して、重大な法益侵害を与える「明白かつさしせまつた危険」が二義を許さず認められる特別の場合に限るべきである。

(五) 具体的に吹田市公安条例を検討してみると、同条例は、東京都、京都市、新潟県等、他の公安条例に比して、最も違憲性が強い。又、昭和二十九年十一月二十四日、最高裁大法廷判決が、新潟県条例第四号違反被告事件について示した原則、すなわち、「一般的許可性をとつてこれを事前に抑制することは、憲法の趣旨からしても許されないが、〈1〉特別の場合又は方法につき、〈2〉合理的かつ明確な基準の下に、〈3〉公共の安全に対し、明らかなさしせまつた危険を及ぼすことが予見されるとき、にのみこれを不許可禁止する場合に限つて合憲である。」との原則にてらしても違憲である。蓋し、

〈イ〉 まず、吹田市公安条例の規制対象の特定性はない。同条例は、第一条において「行進若くは進団示威運動で車馬又は徒歩で行列を行ない、街路を行進又は占拠することによつて、他人の個人的権利又は街路の使用を排除若くは妨害するに至るべきもの」と規定し、場所については、あらゆる街路を全面的包括的に含めている。又、集団行進の方法、態様についても学生、生徒その他の遠足、修学旅行、体育競技、通常の冠婚葬祭等、慣行による行事等、他の都市の公安条例が除外しているものも規制対象から除外していない。右のように、吹田市公安条例は、場所、方法、時間、規模等によつて特定のデモを規制するものではなく、一般的、包括的、全面的にデモを制限する規制方法をとつている。又、「許可、不許可」の文言で明らかなように、この規制は、届出制ではなく、許可があつてはじめてデモの禁止が解除される一般的許可制である。(重要な基本的人権を制約する法規においては「届出」か「許可」かの明文上の区別は、重要であり、この区別を無視することは許されない。)

〈ロ〉 次に「公共の安全に差し迫つた危険を及ぼすことが明らかか否か」の許可基準も、政府の一行政機関にすぎない「公安委員会」とその事務を代行する警察の許可不許可を決する明確な基準としては、あまりに抽象的で乱用される蓋然性が高い。殊に、右の基準は公開の法廷での当事者主義のもとにおける厳格な訴訟手続に従つた事後の刑事司法手続において用いる場合と異り、手続的保障のない事前の行政的取締の基準としては、権利保障のためには、不十分である。蓋し、「公安委員会」や警察は、もともと犯罪、交通、風俗営業、質屋等の監督、取締りをすることを業務としており、治安維持を重視し、かつ、時の政府権力に迎合し易い組織機構なのだから。

〈ハ〉 更には、同条例第四条第三項は、公安委員会に許可の付款として「群集無秩序又は暴行から一般公衆を保護するため」必要な条件をつけ、この条件に違反した場合は、処罰されることになつており、公安委員会の裁量次第で、いかなる条件=犯罪構成要件をも付される危険(白地刑法)がある。このようなあいまいかつ包括的な規定は、所謂、寺尾判決(昭和四十二年五月一〇日、東京地方裁判所刑事第五部判決)が指摘するとおり、定型された多数の条件をつけた上で、許可し、しかも、その条件によつて集団行動等の表現手段としての本質を阻害することを可能とするような運用をもたらしている。

〈ニ〉 更に本条例は、「公安委員会」が許否を明確にせず、放置した場合の救済規定がない。その上、新潟県、京都市、東京都の各公安条例(これらは二十四時間前までに許可証を交付することとされている)と異り、公安委員会の許可の決定期限の規定すらない。また、同条例には、不許可の場合の申請者への通知等の規定もない。したがつてデモをなすものにとつては、いつ許可があるのか、あるいは不許可になるのか、許否の決定がおくれているのか、知る由もない。又、行動実施の直前に許可と決定され、主催者に通知されたとしても、準備不足等のため実施不能に陥り、実質的には不許可処分を受けたと同様の事態に立ち至ることも十分にあり得るのである。そして、仮に公安委員会が行動実施日時まで許可を決せず放置した場合にも、前記昭和二十九年最高裁大法廷判決における新潟県公案条例の如く「許可申請を受理した公安委員会が当該行列行進集団示威運動開始日時の二十四時間前までに条件を付し、又は許可を与えない旨の意思表示をしない時は、許可のあつたものとして行動できる」旨の明文の規定がない以上、行動実施は禁止され、これを強行すれば、同条例五条の取締処罰の対象となるのである。

〈ホ〉 沿革的にみても、同条例は昭和二十四年占領軍の超憲法的な権力に基づく命令によつて大衆の政治的活動を抑圧するために、十分審理も尽されないまま、法律の形式によらず各地で一斉に制定されたものである。超憲法的な権力の認められない現在においては、条例の存在基盤はない。加えて、右条例で「公安委員会」というのは、吹田市公安委員会を指していたものであり、吹田市公安委員会は、人事及び常時の報告等を通じて、吹田市議会と吹田市民によつて民主的にコントロールできえたのであるが、吹田市公安委員会が、消失した現在においては、同条例にいわゆる「公安委員会」は存在せず、同条例の許可不許可を決定する機関は存在しないので同条例の存在する根拠はない。大阪府公安委員会は、吹田市議会及び吹田市民による民主的なコントロールが直接的には及ばないので、これが吹田市条例の予定する公安委員会の業務を行なうことはできず、経過規定を定めるにすぎない政令によつては右の矛盾を解消できない。

以上を総合すると、吹田市公安条例は、デモについて場所、方法等を全く特定することなく、一般的に禁止し、その実施を抽象的で乱用のおそれある不明確な基準にかかわらしめ、かつ公安委員会の処分決定の怠慢、不許可処分に対しては有効な救済手段が欠けていることが明らかであるから、このような規定自体、憲法上特に重要な表現の自由に対するものとしては、必要最少限度のものとは到底いいがたいし、殊に、超憲法的な占領軍の権力、吹田市公安委員会の存在しなくなつた現在においては、右公安条例を合憲と解する余地はなく、憲法上の権利を大巾に侵害するものとして、違憲無効たるを免れない。

三、本件不許可処分の違憲性、違法性、

(一) 明白、現在の危険の不存在

1、申立人の前記許可申請に対し、被申請人は、昭和四十五年三月十三日、前記吹田市条例第九十九号「行進及び集団示威運動に関する条例」第四条に基づく処分として、これを不許可にしたが、その理由とするところは次のとおりである。

〈1〉 集団示威行進が行なわれる日は、万国博公開初日であり、入場者約六〇万人、車両約五万二千台のぼう大な来場による極度の雑踏、交通停滞が必至であること。

〈2〉 主催団体の中に、万国博及び中華民国館の実力粉砕を企図しているものもあること。

〈3〉 高速自動車道と同様の道路構造を有し、最高速度時速六〇キロメートルが認められている道路上を集団示威行進することは、万国博業務の円滑な運営を阻害するとともに極端な雑踏による重大な事故の発生が危惧されること。

2、しかしながら、右の不許可理由はいずれも誤まれる事実判断を前提とし、本件デモに対する予断と偏見に基づき、ともかくも本件デモの実現を阻止しなければならないとする露骨な政治的意図のもとに、裁量権を濫用し、公安条例に名を借りて本件デモを禁圧しようとする暴挙に出たものと言わざるを得ない。すなわち、右不許可理由は、まず、

〈1〉 デモ実施当日が、「万国博」一般公開日にあたるが、当日は入場者数約六〇万人、車両約五二、〇〇〇台の膨大な来場者により雑踏、交通停滞が必至とされていることを挙げている。しかしながら、本件デモは正に右のごとき多数の参集者のあることの故に行なわれようとしているのである。けだし、現代のマスコミュニケーシヨンの状況はテレビ、新聞等のマスメデイアは、殆んど大企業の独占するところであつて、国民一般にとつては、マスコミに対して受容的に関与することのみが許され、積極的に自らの意思を広く伝達する機会や手段が奪われていることは周知の事実である。ことに「万国博」の開会日が近づくにつれてこれを謳歌する各種マスコミを通じてのキヤンペーンは熾烈を極めている。従つて、万国博の開催に反対する意見をもつものにとつては、多数の人々がこれに参集し、各種報道機関をはじめ多数国民の耳目がそこに集中する万国博開催当日における現地におけるデモの実行こそが、その反対意見を極めて効率的に表現にするために不可欠的必要なのである。

不許可理由の第一は、かえつて本件デモ申請の正当性とこれに対する不許可処分の違法性を示すものである。

〈2〉 なお、本件デモに参加を見込まれる人員の数は約一千名内外であり、前記六〇万人に上る人出に比べれば、正に九牛の一毛にしかすぎず、従つて、本件デモが原因となつて大混乱が生じる明白かつ現在の危険が存するが如き立論はなんら合理的なものと言いがたいことは明白である。又、万国博を見物する人員については、無制限に来場を認めながら、万国博の開催に反対の意見を有する少数の者が会場付近で示威行進をすることを禁じる右処分は、法の下の平等を保障する憲法第一四条の規定にも違反すると言わなければならない。

〈3〉 次に右不許可処分は、本件デモ参加者の集合場所が雑踏を予測される地点であることや、行進する道路が、「高速自動車道」と同様の道路構造を有し、時速六〇キロが認められている道路等を通行するものであるから(本件デモによる?)極端な雑踏のため万国博に来場する観客、通行者等の生命、身体の危険が招来されるおそれがあることをその理由としている。しかしながら、マスコミ等で万国博当局がその対策に苦慮していることが知られているとおり、前記のごとき「極端な雑踏」は本件デモによつて惹起されるおそれがあるのではなく、当日、六〇万人の群衆が会場付近に殺到することによるのであり、又、本件デモ行進予定道路が、いかに六〇キロメートルの最高時速を認められる道路であつても「一日五二、〇〇〇台の自動車が来場することによる極端な雑踏、交通停滞が必至とされる(本件不許可理由書の冒頭部分参照)」実状の中では、本件デモがなんら右に言うが如き危険性を増大させる要因とならないことは右理由書を一読しただけですでに明白である。

3、以上のとおり、本件不許可処分の理由は、いずれも、前提となる事実の想定において、矛盾した机上の空論であつて理由がない。本件デモ行進自体には危険はなく、来場する車両との関係で、一般的、抽象的危険が全くないわけではないが、「差し迫つた現在」のものでなく、いわんや「明白」なものではない。

(二) 「他人の個人的権利」との「調和」?

吹田市条例第一条は「他人の個人的権利を妨害するに至るべきものは」許可を要すると規定する。本件デモ行進に同条例第四条の事由がないことは既に述べた。そこでここでいう「他人の個人的権利」と本件申請人の「憲法上の権利」とその重要性を比較較量しておく。

1、バンパクの政治的意図――その「明白かつ現在の危険」

一九六〇年の安保闘争にこりた佐藤自民党政府は、一九七〇年の安保改訂から国民の目をそらし、反対運動の盛り上りを押え、更に積極的に独占資本の威力を誇示し、海外侵略への思想的足場としての大国主義をあおるために、バンパクを設定した。石坂バンパク協会長は六八年年頭のあいさつで「バンパクの開催は安保騒動から国民の目をそらす意味もある。みなさんは、そういう重大な仕事にたずさわつているのだから、一層奮励努力してもらいたい」と協会員をしつた激励した。国際博覧会条約は、万国博の開催は六年の間隔と定めている。短期間では展示内容が変りばえせず、又、膨大な資金がかかるからである。しかるに日本万博はモントリオール博(一九六七年)からわずかに三年しか経つていないし、当初準備に一〇年かかるといわれたものを強引に日本に誘致したのである。なぜそれほどまで無理をして、――いかに無理をしているかは、車両五万二千台の来場を予想しながら、駐車場は、二万二千台分、入場者六〇万人を予想しながら、食堂は、二万人分しかない。etc、etc、――なりふりかまわず、一九七〇年に、強行しなければならなかつたのか?、なぜ、七三年までかけて充分な設備を整えた上で開催しなかつたのか、一九七〇年の政治情勢は、“まぼろしの万国博”の年、一九四〇年の政治情勢と驚くほど酷似している。すなわち、日本帝国は、一九三一年、満州事変をひきおこし、三二年、五・一五事件、三三年、国連脱退、三五年二・二六事件、三六年日華事変と対外侵略を深め、万国博中止が決定された一九三八年には国家総動員法を制定して国民の基本的人権をことごとく奪い去り、四〇年日独伊三国同盟、そして一九四一年太平洋戦争へと突入し、中国、アジア各地に植民地争奪のための戦火を拡大していつたのである。

ベトナム戦争に行詰つたアメリカに代つて、新しいアジアの盟主として自衛隊の朝鮮半島進出、東南アジア進出を企てる佐藤自民党政府にとつて、大国主義思想のかん養は火急の任務である。このような自らの危険な意図を被い隠し、国民の関心をそらせ、国民の不満を「お祭気分」の中に解消させようとする陰謀は、その危険な意図の犠牲者として予定されている国民にとつて極めて「差し迫つた現在の危険」と言わねばならない。残念ながら、政府の圧倒的な宣伝力の前に、国民のかなりの部分が惑わされ、その危険性について充分に気づいているとはいえない。しかしながら、その危険性は客観的に多少とも自覚した者は極めて「明白」なものである。

2、バンパクの反国際性、反人民性――独占資本家の集団的示威運動

(1) バンパクは万国博とは名ばかりで、世界一三四ケ国中七七ケ国、僅に五七パーセントの参加であり、真にアジアの「進歩と調和」を希うなら、当然招請すべきベトナム民主共和国、朝鮮民主主義共和国、中華人民共和国に招請状すら出していない。

(2) 「万国博ほど莫大な需要の発生は戦争以外にあり得ない」カナダの政治家の言葉を引用するまでも、バンパクの統計数字が右の事実を示している。まずバンパク関連事業費として、道路、鉄道、空港、港湾、河川、下水道などに投じられた資本は、一兆五千億円といわれ、これが、国家と現地の地方公共団体より支出されている。これが、国家独占資本の蓄積強化となり、独占資本の利潤の効率引き上げに役立つのである。さらに会場建設費、運営費など直接事業費は二千億円余とされ、これだけの資本が独占資本の利潤追求のために投じられる。その結果、四兆数千億円の需要効果が期待されている。その故に、国内外の矛盾を増大し、民衆はその犠牲となつてゆく。「資本という怪物が需要のないところにも巨大な事業をつくり出して利潤を生み、民衆生活を骨のズイまで食いつぶしふとつてゆく」(針生一郎)かが明らかである。バンパクによつて再編強化された独占資本は、その生産過剰を回避し、需要を誘発してゆくために、戦争という莫大な消費を期待し、利用することになる。

(3) 一方国民は、一人当り平均一万円の税金を負担し、更に大阪府民は、一世帯当り一・五万円を負担し、吹田市民は更に、一人当り一・六万円を負担している。その上に、高い入場料と特別料金を払わされる。

(4) 会場八〇万平方米のうち、人の利用できる空地は二十一万平方米、六〇万人の入場者中六〇パーセントが展示館地区に入つたとすると残り二十四万人が、二十一万平方米にあふれることになる。一人当り一平方米弱である。休けい設備は、一万七千人分、トイレは、展示館施設の他には一、八〇〇人分。

一部特権階級の優待に比べて国民はフンダリケツタリである。そして宣伝の派手さに比べて、その内容の空虚さを知つた時、国民ははじめて詐欺にかかつたことを理解するであろう。

(5) バンパク公害

住民不在のバンパクは、建設過程においても住民に災害をもたらしている。治山治水対策ぬきの会場地造成は、四二年、四三年と二年連続の鉄砲水による水害を引きおこし、吹田市は、死傷者五〇名、家屋全半壊三戸、床上下侵水一万戸の犠牲を出している。

ダンプ、トラツクが一日に六、〇〇〇台走り、その騒音とホコリが市民の上にふりかかる。交通マヒは言うまでもない。

(6) 一日三〇~四〇万人の食事をまかなうための肉、野菜など生鮮食料品を中心とする消費者物価の急上昇。

(7) そのし尿、ゴミの処理に伴う公害。

(8) 宿泊施設の圧倒的不足

大阪府及周辺都市の住民は全国各地からの宿泊依頼にノイローゼになつている。

バンパクのまき散らす弊害と住民の犠牲は枚挙にいとまがない。バンパクは独占企業と佐藤政府にとつては、その「科学技術」――鞭打症ひとつ満足になおせないものであるが――を誇る集団的示威行動以外の何ものでもない。その成否は、如何に多数の国民を動員し、安保問題から目をそらさせ、大国意識をうえつけ得るか否かにかかつている。

3、批判・警告・抗議の必要性

以上のとおりバンパクは、その意図において極めて危険なものであり、その内容において反人民的なものである。「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないようにすることを決意し」た主権者たる国民にとつて、戦争の危険を被い隠すバンパクを批判し、その危険性を警告し、抗議することは、譲ることのできない権利であり、崇高な義務である。

政府側の調査によつてさえも、国民の二〇%、二千万人はバンパクに「ノー」を唱えている。この極めて政治的な意図と効果をもつバンパクに、賛成者、或は宣伝につられて無批判に来るものは四千万人でも五千万人でもその収容能力をはるかに越えて来ることを認めあおりたて、他方バンパクに批判的な二千万人の声を代表する者の声を圧殺し全く表現の機会を与えないとは許されないことである。警告としての表現の自由の行使は多数の国民が浮かれてその危険性に気づいてない時こそ一層重要である。

三月十五日、バンパクの第一日目においては、その政治的意図を批判し、抗議の意思を表現することは民主的社会にとつて不可欠の要請である。

4、「不許可処分」の政治性

極めて政治的意味をもつ行為を批判することを封殺することは、極めて政治的な意図と効果をもつものであり、政府自らが、如何に国民の批判を恐れているかの何よりの証左である。不許可処分の理由は「雑踏による事故」による「生命身体の危険」を心配しているかの如き口吻であるが、バンパク主催者たる政府・独占企業が国民の「生命身体の危険」につき何の考慮も払つてないことは、バンパク建設過程における住民の犠牲、労働災害等から明らかである。

四、本件集団示威行進には憲法の保障する表現の自由を抑止するに足る「明白かつ現在の危険」は認められない。本件不許可処分の効力が停止されなければ申立人は回復しがたい損害を被るので本申立に及んだ。

集団示威運動許可申請目録

主催者    安保万博粉砕共闘会議

申請人    桜井宗五郎

目的、名称  安保万博体制に反対のための集団示威行進

実施日時   三月十五日午後二時三〇分~四時三〇分

集合場所   吹田市山田小川、北大阪急行電鉄「万博中央口」駅北側タクシー乗降場

集団示威運動の場所、行進経路 「万博中央口」駅北側タクシー乗降場~大阪中央環状線~流出線~調和橋北詰左折~外環状道路東口前~日本庭園北側~外環状道路北口前~西駐車場南三差路右折~西ゲート前交差点直進~弘済院東交差点直進~南公園口バス停直進~佐竹台二丁目交差点右折~南千里駅ガード下(流れ解散)

参加団体   万博台湾館粉砕行動委員会

反安保キリスト者連合

べ平連、反戦、その他

参加予定人員 一、〇〇〇名

疏明方法〈省略〉

(別紙二)

意見書

意見の趣旨

本件執行停止の申立は、「本案について理由がない」とみえ、かつ、何よりもその申立てが認容されるときは「公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがある」ことが明らかであるからすみやかに却下されたい。

意見の要約

一 本件デモの主催団体の性格

本件デモの主催団体たる「安保万博粉砕共闘会議」は、万博粉砕をその目的とし、万博台湾館粉砕行動委員会、関西地区反戦、反安保キリスト者連合、ベ平連、毛沢東思想学院事務局、解放戦線、毛沢東思想青年同盟等をその構成メンバーとするものであるが、本件主催団体の前身と認むべき団体及び右団体のうちのいくつかの団体もしくはその構成員等は過去いくたの違法なデモを敢行し、又その主張は、行動とともに著しく過激であり、現に幾人かの者は、かつて凶器準備集合罪、傷害罪、公安条例違反、公務執行妨害罪等で逮捕されたことがある。したがつて、本件主催団体によるデモは、多くの違法行為が随伴する虞れが極めて濃厚である。

二 本件デモの集合場所及び行進経路と交通の渋滞、停滞等。

(一) 本件デモは、中央環状線北側タクシー乗降場を集合場所とし、ここから中央環状線、流出線を経て調和橋北詰を左折し、外環状道路の東口前、日本庭園北側、北口前を経て西口手前を右折し、連絡道路(千里二号線と外環状道路との連絡道路)を経て千里二号線を南下し、佐竹台二丁目交差点を右折し、南千里駅ガード下において流れ解散をしようとするものであるが、その主たる行進経路(本件申請デモの全区間の三分の二)が万博展示場に膚接する重要な場所(そこは万博協会の管理地である。)であること明らかであり、またそこでデモを行なうことによつて、その効果を最大限に発揮することをねらいとしていることもまた明らかである。

(二) ところで本件デモの集合場所であるタクシー乗降場及びこれと階段をもつて連絡する北大阪急行電鉄万博中央口駅コンコースならびにその北側にある万博会場中央入口は、いわば万博会場の正面玄関に位置する場所であり、十五日の推定入場者約六〇万人の約四四パーセント、二七万人が集合する場所であり、ただでさえ混乱が予想されるにかかわらず、過激な言動の予想される本件デモがそこを集合場所とし、出発点とするならば群衆心理も手伝つて大混乱を惹起することが予想され、状況加何によつては大惨事を惹き起すことにもなりかねない。

(三) さらに行進経路の最初の部分である中央環状線は、実際上高速自動車専用道路として機能しているものであるが、ここをデモが行進する場合は、デモ参加者自身の生命、身体にとつても極めて危険であり、デモ自体による交通の渋滞混乱は避けがたいところであり、ひとたび交通事故を惹起せんか大混乱は必至である。

(四) つぎに行進経路の主たる部分である外環状道路は、車両を利用する入場者(推定約二五万人、推定車両台数約五万二、〇〇〇台)が必ず通行する道路であるが、デモの隊列が同道路を通過し終るまでに要する推定約一時間三〇分の間は著しい交通の渋滞・混乱を惹起し、もし、ジグザグデモその他の越軌行為が行なわれるとすればその渋滞・混乱は想像を絶するものがあるといわなければならないし、さらに不測の人身事故その他の事故を予想しないわけにはいかない。ことに外国要人をはじめとする外国人入場者にその累が及んだ場合にはその国際的反響は由々しいものとなり、有形、無形の形においてわが国益を害することになろう。そしてこれらの渋滞・混乱は同道路への四本のアプローチ道路及び他の主要幹線道路に及び空前絶後の渋滞と混乱を惹き起すことになろう。

(五) さらにまた、デモに随伴して各種の違法行為が行なわれるとすれば(本件主催団体構成メンバーは万博実力粉砕を呼号していることを想起されたい。)万博施設自体及び変電所・給油所・プラント等の重要関係施設に累が及ぶおそれがある。

(六) 以上予測されるような混乱・不測の事故がひとたび惹起せんか、それ自体由々しい問題であると同時に万博に対する国際的・国内的評価を低下させ・万博のもつ意義を著しく減殺することとなり、わが国益に反すること明白である。

(七) 以上のように本件デモ申請に対する本件不許可処分は、吹田市公安条例上も、道路交通法上も極めて妥当な措置というべく何ら違法・不当なかどは認められないので本件申立は「本案について理由がない」とみえることが、明らかであるというべく、ことにその申立が認容されるにおいては公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあること明白であるといわなければならない。

よつてすみやかに却下されるべきものと思料する。なお最後に一言すれば、本件行進経路のうち、解散地点から逆行して約千数百米の区間(本件申請デモの全区間の約三分の一)に限つていえばその他の区間とは若干事情は異なるかもしれない。しかし本件デモは以上指摘の行進経路及び区間におけるデモをその主たる目的とするものであり、この区間と前記千数百米の区間とを分離して考えることは非常識であり、本件デモは両区間一体として行われることによつてのみ意義を有するものであることが明らかである。

したがつて、前記千数百米の区間に限つて許可することは実際上無意義であるのみならず、法律上不能であると考えられる。

けだし、それは申請人の目的とするところと全く異なるものであり、全区間を通じてのデモすなわち本件申請のデモと右千数百米の区間のデモとは社会通念上も互いに異なつたデモと評価すべき場合であるから本件申請に対して右のような形の許可をすることは実質的には申請なきにかかわらず、許可をするのと何らえらぶところがないと考えられるからである。

なお技術的な観点からするも当該区間のいずれの地点にも集合場所を求めることは困難であることを申添える。

意見

一 本件デモ申請の主催団体の性格

(一) 申立人は、安保万博粉砕共闘会議に所属するものであるが、デモ行進の目的を万博反対をアピールすることに求めるデモ行進とし、

昭和四五年三月一五日一四時三〇分に吹田市山田小川、北大阪急行電鉄「万博中央口駅北側タクシー乗降場(大阪府道中央環状線附属施設)に集合し、同時刻同所を出発、大阪府道中央環状線―流出線―調和橋北詰左折―外環状道路東口前―日本庭園北側―外環状道路北口前―西駐車場南三差路右折―西ゲート前交差点直進―これより大阪府道千里二号線―山田弘済院東交差点直進―南公園口バス停直進―佐竹台二丁目交差点右折―南千里駅ガード下

のコースでデモし、一六時三〇分同所で流れ解散する。

主催者 安保万博粉砕共斗会議

参加団体 万博台湾館粉砕行動委員会、反安保キリスト者連合、ベ平連、反戦、その他

参加人員 一、〇〇〇名

として許可申請をなした。(疎乙第三・四号証)

(二) 本件デモの主催団体である「安保万博粉砕共斗会議」は、参加団体である万博台湾館粉砕行動委員会、反安保キリスト者連合、MLM青年同盟、毛沢東思想学院事務局、解放戦線、毛沢東思想青年同盟、関西べ平連、関西地区反戦、アンチ万博社、反帝戦線他の傘下団体をもつて構成され、右各団体は、すべて万博粉砕を旗印にしているが、そのうち、万博台湾館粉砕行動委員会は、文字どおり中華民国館の破壊を、反安保キリスト者連合は、キリスト教館の破壊をそれぞれ目的とし、以下例示するように多数の違法デモをくりかえしている。(疎乙第五号証)

(1) 昭和四四年九月二八日、関西べ平連傘下の茨木ベ平連、万博台湾館粉砕行動委員会に属する反戦日中及び本件申請書中にその他として包括記載されている反帝戦線(社学同)を主体とする反博行動委員会準備会員五六名は、一五時一三分から一六時四〇分の間、万博治安条例粉砕アピールを目的として、阪急南千里駅前―津雲台センター―万博会場西ゲート前交差点―北消防署前―藤白台センター―阪大工学部前のコースでデモ行進し、出発直後から違法なジグザグ行進をはげしく行なつたためやむなく機動隊一個小隊が併進規制した。(疎乙第五号証一覧表4)

(2) 同年一二月一四日、反安保キリスト者連合傘下の一一〇名(反戦日中等の日中関係団体、反帝戦線(社学同―赤ヘルメツト)三〇名を含む。)は、一六時から一七時までの間、万博キリスト教館粉砕を目的として、扇町公園―南扇町―梅ケ枝町―梅新―桜橋―新阪神ビル北西角のコースでデモ行進し、日中関係団体は万博台湾館粉砕等をアピールし、随所で違法なジグザグ行進を行なつた。(前表5)

(3) 昭和四五年一月一五日本件主催団体の前身である安保万博粉砕現地集会実行委員会員二七〇名は、一五時三〇分から一七時三〇分の間、安保万博粉砕アピールを目的として、阪急南千里駅前―津雲台センター―近隣センター―万博西ゲート前交差点―北消防署前―古江台小学校前―北千里駅前のコースでデモ行進を行ない、出発直後から随所で違法なジグザグ行進をはげしく敢行し、指揮者一名を公安条例違反で逮捕した。(前表7)

(4) 同年二月一一日本件主催団体の前身である安保万博粉砕共斗会議準備会は、反戦日中、MLM青年同盟等二六〇名を擁して、一五時三〇分から一七時までの間、右(3)と同じコースでデモ行進し随所で違法なジグザグ行進をはげしく行なつた。(前表9)

(5) 同年三月八日本件主催団体は、MLM青年同盟、反戦日中、関西地区反戦等一二〇名を擁し、一四時三〇分から一五時三〇分までの間安保万博粉砕、出入国管理法案粉砕のアピールを目的として、扇町公園~本田技研前~南扇町~梅ケ枝町~梅新~桜橋~大阪駅前第一ビルのコースでデモ行進し、出発直後から随所で違法なジグザグ行進を行なつた。(前表10)

(三) 本件デモ行進の参加団体たる関西地区反戦所属員は、昭和四四年一〇月一七日および一〇月二〇日に行なわれたいわゆる中電マツセンスト(大阪中央電報局を拠点として街頭闘争と生産点闘争との結合をめざして行なわれたスト)の際、北大阪制圧闘争を呼号して、火えん瓶、爆竹を携帯し、一七日には阪急前交差点等路上に火えん瓶数一〇本を投てきして、凶器準備集合、公務執行妨害で合計一〇名が、二〇日には同電報局内に火えん瓶を投てきする等の行為をなし、五名が公務執行妨害等で逮捕されている。(疎乙六号証別表11、12)また、同年一一月一三日のいわゆる佐藤訪米阻止闘争において、第二次北大阪制圧闘争を計画し、右関西地区反戦所属員八〇名が鉄棒、火えん瓶、爆竹を警察部隊に投てき、扇町公園前でカルチエラタン(解放区)を設定した(前表15)外、同八月一一日から右一一月一三日までの間八五名の逮捕者を出している、さらに関西地区反戦以外の参加者である共産同(社学同等)、MLM青年同盟、ベ平連および、キリスト者反戦も火えん瓶、鉄パイプ、ゲバ棒等の所持により凶器準備集合罪、ゲバ棒による傷害罪により同八月八日から一〇月二一日までの間、一四名の逮捕者を出している。(疎乙第六号証)

(四) 昭和四五年三月七日大阪市主催で、大阪市西区新町北通り二丁目一番地の一大阪厚生年金会館において開催された「万国博を迎える市民大会」の際、中馬馨大阪市長に「万国博というが何事だ」と怒鳴つた。大阪市立大学生清水伸夫(現在勾留中)はアンチ万博社の機関紙「アンチ万博」No.0、No.1(この機関紙は記(五)の万博粉砕集会で配布されたものと同一である。)(疎乙第九号証参照)を所持し、かつ、その下宿先には栄養分析表(疎乙第八号証資料)と称する時限爆弾、ラムネ弾およびキユーリー爆弾の製造、使用法を詳細に記載したパンフレツトを所持していた。(疎乙第七号証)

(五) 本件申立人である桜井宗五郎は、右三月八日に大阪市北区扇町公園において、MLM青年同盟、反戦日中、関西地区反戦等約一四〇名が参加して開催された「安保万博粉砕、出入国管理法案粉砕決起集会」において、特に発言し、「三月一五日午前一〇時大阪城公園で行なわれる春闘共闘委の全国統一行動に参加して万博共闘を訴え、午後二時万博会場中央口駅に結集して大混乱をおこす」とはげしい口調で行動提起をおこない、これに対し参加者一同は熱烈な拍子で賛同の意をあらわした。(疎乙第一〇号証)

また同集会においてあいさつに立つた関西地区反戦代表は万博反対闘争を前記中電マツセンストになぞらえてこれを勝利させようと述べ万博闘争の目的を強調した。(疎乙第九号証)

(六) 以上のとおりその申請書によれば単に万博反対のアピールを目的とするごとくみえる本件デモ行進は、路上における違法なはげしいジグザグデモ、あるいは火えん瓶等の投てきにより、後記のように多数の公衆、車両等でただでさえ混雑している万博会場周辺を異状な混乱状態におとしいれることが予想される。

二 日本万国博覧会の趣旨、目的

昭和四五年三月一五日から九月一三日までの六ケ月間、人類の進歩と調和をテーマに大阪府吹田市千里山において史上最高といわれる七十八ケ国の出展参加を得て開催される日本万国博覧会は、国際博覧会に関する条約に基づき我が国が招請国として、その名誉と責務をかけて遂行せんとするものであり、世界の国々が科学や文化の成果を一堂に展示し、相互の交流を通じて、世界の平和と繁栄をめざすきわめて意義深い祭典である。また日本にとつては、めざましい発展を遂げた現在の姿と伝統のある文化を世界へ紹介する国家的事業であるとともに、日本および日本人を国際的な舞台で見直させるまたとない機会である。このような日本万国博覧会には、日本国民の大多数および世界各国の国民多数が来場することが予想され、そこから人類の未来を開く多くの成果が期待され日本国民全体の福祉さらに人類の繁栄に貢献すること多大である。

三 本件申請デモの集合場所、行進経路等の場所的状況

(疎乙一三号証図面、同、一四号証の万国博中央口状況写真、同一五~一八号証参照)

(一) 本件デモの集合場所である北側タクシー乗降場と階段をもつて連絡する北大阪急行電鉄「万博中央口」駅コンコースは、万博中央口改札口から万博展示場、エキスポランド各中央入口までの間の長さ一八〇メートル、巾二〇メートルの広場であり、その面積は、約四、三一〇平方メートルである。

このコンコースは万博中央口駅北側と南側に区別することができ、その中央部分の通路巾は六・三メートル、北側コンコースの面積は二、五五〇平方メートル、南側コンコースの面積は一、七六〇平方メートルである。

コンコース北側には、万博展示場に通ずる中央改札口北が、コンコース南側にはエキスポランドに通ずる中央改札口南があり、北大阪急行電録の改札口、乗車券出札所は北側と南側の二個所にある。

コンコースの階下(つまりコンコースが後記中央環状線、中国縦貫自動車道と立体交差の状態になつている。)に北大阪急行電鉄のホームがあり、又、中央環状線、中国縦貫自動車道が走つている。

中央環状線は、北大阪急行電鉄線路および、中国縦貫自動車道の両側にあり、本件デモの集合場所である万博中央口北側タクシー乗降場は北側中央環状線の北側に接して設けられており、その面積は七二〇平方メートルである。

コンコースと北側タクシー乗降場を結ぶ通路は北側コンコースにある幅員一・七メートルの階段と幅員〇・八メートルのエスカレーター(輸送能力一時間三、〇〇〇名)のみであり、エスカレーターは通常上昇客用である。中央環状線は昭和四〇年二月大阪府告示第一〇九号により府道に認定された道路であるが、この道路には歩車道の区別はなく、車のみの三車線となつており事実上自動車専用道路として自動車が連続して六〇キロメートルの高速で走行している。

また、中央環状線中央には巾一〇メートル、面積一、二九〇平方メートルのバス乗降場があり、コンコースとはタクシー乗降場の場合と同様の幅員をもつ階段とエスカレーターで連絡されている。

(二) 外環状道は、万国博会場外周を取り巻く全長五・二キロメートル、幅員二二メートルの万国博協会管理する道路である。(道路法上の道路ではないが、道路交通法上の道路にあたる。)

車道幅員は一七メートル、五車線、右廻り一方通行であり、歩道は、その両側にある。右側歩道は幅員二・五メートルで、七メートル間隔で車道に沿つて街路樹が植えてあり、また二六・五メートル間隔で照明用ポールが、さらに七五メートル間隔で、消火栓がそれぞれ車道に沿つて設置され、左側歩道は、幅員二・五メートルで、車道に沿つて七メートル間隔で街路樹が植えてあり、四〇メートル間隔で照明用ポールが設置されている。

このため歩道の有効幅員はわずか一・五メートルにすぎずこの歩道は万国博道路としての美観を保つためのものであるにすぎない。

外環状道路の左側には、これに沿つて駐車場や会場ゲート、さらには、冷房東プラント、北給油所、北変電所、高圧線立下潜入口、冷房北プラント、西変電所、南給油所、北大阪急行山田変電所等の万博関係重要施設が設けられている。また外環状道路には、外部から会場に入場するためのアプローチ道路としての道祖本摂津北線、同南線、茨木駅千里丘陵線、千里二号線および中央環状線が接続し、これらのアプローチ道路を通じ名神高速道路、大阪高槻京都線、国道一七一号線等の主要幹線道路と連絡している。

(三) 外環状道路西口駐車場南側から千里二号線(西ゲート前交差点)に達する連絡道路は幅員平均一一メートル、長さ五〇〇メートルの湾曲した坂道で歩車道の区別はない。右「連絡道路」は西ゲート前交差点北端において幅員五・五メートルの大阪府道山田上小野原線に接続している。この「連絡道路」のうち外環状道路から四五〇メートルまでの部分は万博協会が管理する道路である。

(四) 西ゲート前交差点から佐竹台二丁目交差点までは大阪府道千里二号線、同交差点から解散地点である阪急千里山線南千里駅ガード下までは千里一号線で、その距離、合計二、〇〇〇メートルである。そのうち西ゲート前交差点から南へ約四〇〇メートルの津雲橋の間には、幅員二メートルの中央分離帯、その両側に幅員六・六メートルの車道があり、さらに、道路の両側に、三・五メートルの幅員をもつ歩道があるが、その歩道にはいずれも車道寄りに街路樹があるため有効部分は約二・三メートルである。津雲橋は全長約五〇メートル、車道部分の幅員は一三・二メートル、中央分離帯の幅員は二メートル両側歩道の幅員は三・五メートルである。津雲橋から南へ約一、六〇〇メートル佐竹台二丁目交差点の間には幅員二メートルの中央緑地帯、その両側に幅員六・六メートルの車道、さらにその両側に幅員三・五メートルの歩道があるが、その歩道にはいずれも車道寄りに街路樹があるため有効幅員は約二・三メートルである。佐竹台二丁目交差点から西へ約三〇〇メートルの解散地点である阪急千里山線南千里駅ガード下までの間には幅員三メートルの中央分離帯その両側に幅員六・五メートルの車道、さらにその両側に幅員四・五メートルの歩道があるが、その歩道にはいずれも車道寄りに街路樹があるため有効幅員は約三メートルである。津雲橋から佐竹台二丁目交差点の間に山田弘済院東交差点があり、大阪府道堺布施豊中線と交差している。佐竹台二丁目交差点では大阪府道高槻京都線に至る大阪府道千里一号線に交差している。

西ゲート前交差点から山田弘済院東交差点までの間に一部東側に金網柵に囲繞された大阪ガスタンク、阪急千里変電所、関西電力千里丘変電所の各施設がある。その間の道路端地帯は両側とも道路より三メートルないし一〇メートルの高台となり万博開催期間の混雑等による被害を虞れた所有者によつて、すべて有刺鉄線等による柵をもつて囲繞され立入禁止の措置がなされている。

弘済院東交差点から解散地点である南千里駅ガード下までは千里ニユータウンを貫く幹線道路であり千里ニユータウン住区には住区内公園、空地があるが前述のごとくいずれも管理者により柵および立札による立入禁止措置がなされている。したがつて西ゲート交差点から解散地点までには多数人が集合可能な場所はない。

佐竹台二丁目交差点から解散地点である阪急千里山線南千里駅ガード下までは周辺には千里病院、南千里駅、南地区開発センター、スーパーマーケツト等があり千里ニユータウン、南地区における中心地である。

四 三月一五日 一般公開初日の入場者数および会場周辺における交通状況(疎乙第一七号証~二一号証)

(一) 一般公開初日は日曜日にもあたり驚異的入場者数が予想され、その数は約六〇万人を超えるものと考えられ、さらに国内外の要人約一七〇名の来場(疎乙第二二号証)が予定されている。入場総数六〇万人の約四四・三%にあたる約二十七万人は、会場中央口利用者と推定されている。一般公開初日には、二分三〇秒間隔の八両連結で、二、二〇〇人輸送可能な北大阪急行電鉄が満員の状況で到着しこれらの乗客はコンコースに集中することになる。また右コンコースの階下にある府道中央環状線バス停留所に到着する路線バス、ピストンバスから階上の右会場中央口へ送り込まれる人員は、当日約一万六〇〇〇人、さらに府道中央環状線タクシー乗降場からの降車客九、〇〇〇人が予想され、電車、バス等の到着状況によつては、これらの降車客が同時に会場中央口への階段、エスカレーターを経てコンコースへ殺到する可能性も考えられ、その際は非常な混雑が予想されるうえ、会場中央口の入場者整理能力から見て、常時少くとも二、〇〇〇人から三、〇〇〇人が滞留することが予想されている。会場中央口南北両コンコース、北大阪急行電鉄ホーム、タクシー、バスの乗降場の面積に対する人の流動および収容人員は円滑に流動し得るためには一平方メートルあたり一人以下、静止している場合の安全な収容可能数は五人が限度であるから、中央口北側コンコース流動可能数二、五五〇人、収容可能数一二、七五〇人となる。さらに本件デモの集合時間には、入場者と退場者(会場中央口における入場者退場者予想として午後一時から二時は三万六〇人、午後二時から三時では三万五五五〇人)がコンコースで交錯しその混乱は極度に達することが予想され、とくにコンコースに集る入場者のほとんどは万国博展示場入場者と予想されるので入場者は北側コンコースに集中し北大阪急行電鉄利用の入場者は北側改札口に殺到することとなる。

このような状況においてその流動を少しでも阻害するような条件を与えれば、その滞留は短時間に倍加し極端な雑踏に起因する圧迫、転倒、先争い等による人身事故発生の危険性は強い。

右混雑は、朝夕の通勤時のラツシユと異なり、地方から上阪した地理不案内の人や老若男女が混在したものであるから、わずかの障害で通常予想できないような大事故を惹起する危険を内包している。

(二) 前記中央環状線北側タクシー乗降場は面積七二〇平方メートルであり、そこへ前述のとおり九、〇〇〇人の乗降客があるので乗降場は相当の混雑が予想される。

(三) 中央環状線は、池田市から途中一二の衛星都市を経て大阪平野の中央を、ほぼコの字形に半周し、堺市に至る幹線道路であるから途中数本の国道と名神高速道路等の主要幹線道路と接続しており、府下交通の大動脈的役割を果たす重要道路であるから多数の車両が高速度で走行している。

(四) 車両を利用しての入場者は、総数の約四三%、車両台数にして約五万二〇〇〇台と予想されているところ、会場駐車場の収容能力は二万八〇〇〇台であり、その収容能力をはるかに超えることとなり、ピーク時には、万国博会場を中心に半経五キロメートル以内はマヒ状態になると予想されている。(京大工学部「万国博会場周辺道路における交通流動予測」疎乙第一五号証)さらに一般公開初日のため、ほとんどの運転手が地理不案内であり、さらに会場周辺交通の不貫れから混乱に拍車をかけることは、大阪市内主要幹線道路一方通行実施当初の交通混乱からみても推測に難くないところである。

これらの車両が会場駐車場を利用するには道租本摂津南線、同北線、茨木千里丘陵線、千里二号線、中央環状線より外環状線道路(右廻り一方通行)に進入し、同道路を進行しなければならない。

さらに、外環状道路は府道大阪高槻京都線、名神高速道路と国道一七一号線(道租本摂津南線、同北線、茨木駅千里丘陵線を経由)および千里ニユータウン、池田方面(外環状道路西口経由)を結ぶ主要道路となつているので、その通過車両数も多量であることが予測される。

以上の外環状道路の交通状況からみれば、本件デモ行進が外環状道路を進行する時間帯においても、同道路上には会場駐車場を利用できない車両が停滞する(休日には午前中における入場予定最後尾車が駐車場に入場しうるのは午後五時以降になるものと予測される)とともに前述通過車両が通行することにより大きな交通停滞を惹起することは必至でありまた、前述の外環状道路両側の歩道も会場駐車場から会場入口へあるいは会場出口(入口)から会場駐車場へ向う歩行者等で充満すると予想される。

(五) 西ゲート前交差点における万博開催期間中の交通量は一時間一七、一八一台と推定され、これらの車輛のほとんどが会場に向うものと考えられ、それらの車両はY字型に分れた連絡道路を通過することになる。この道路は西口駐車場、万博会場西入口に直接アプローチするとともに西団体バス駐車場とも接続しているので特に団体バスや歩行者の通行量が著しいと予想される。さらに右道路は前述のとおり湾曲した坂道で幅員わずか一一メートルであるから、会場、周辺での最大の渋停滞道路となろう。

西ゲート前交差点は千里二号線と府道山田上小野原線の交差点が密着した複合交差点であるから、その交通の錯そう状況は想像をこえるものがあろう。

(六) 西ゲート西交差点から佐竹台二丁目交差点までは千里二号線であり国道一七一号線中央環状線、府道堺布施豊中線、千里一、三、四号線さらに新御堂筋線とも接続している。したがつて万博開催期間中は新御堂筋の休日一時間交通量二、二〇四台の約四割を、国道一七一号線(池田方面)からの休日一時間七一二台のほとんどを、千里二号線に誘導する計画がたてられている。

よつて千里二号線の当日の交通量は一般交通量を加え一時間約二、〇〇〇台となり道路の交通容量(約一、五〇〇台)を超過する。又、千里ニユータウンの人口約一〇万人は万博観覧の知人・親族等によりその一・五倍に増加するものと考えられ、それに加え千里二号線のデモ予定コース一帯の住民等が歩行して会場に向うことになり、それらの者により千里二号線の両側歩道は充満されることになろう。

五 本件申請デモが実施された場合における交通の安全等に及ぼす影響(疎乙第二三、二四、二五号証)

まず、本件デモ参加予定団体およびその構成員の多くは、前述のとおり万国博覧会粉砕を目的とし、従来、しばしばジグザグデモその他の越軌行為を敢えてした者らである。

(一) その集合場所は北側タクシー乗降場であり、その面積は、七二〇平方メートルであるから、その流動可能人数七二〇人、静止収容可能人数三、六〇〇人と推定される。そこへ前述のごとき一、〇〇〇人を越える集団が加われば、一般乗降客の流動は完全に阻害され、タクシー乗降場の混乱は極度に達し、圧迫、転倒、先争い、乗降場からあふれた乗降客が中央環状線に押し出されたりする結果、人命の危険、中央環状線の長時間にわたる交通停滞をきたし、さらに北側タクシー乗降場における混乱は、その通路、南北コンコース、北大阪急行電鉄プラツトホーム、他のバス、タクシー乗降場、それらの通路に直ちに波及するであろうことも容易に予見できるところである。

さすれば、前述のとおり広さの限定された会場中央口一帯において異常な雑踏、混乱を惹起し、これらの交通障害が群衆心理をかきたて大惨事を発生させる危険は十分にある。

(二) 中央環状線は前述のとおり、高速自動車専用道路の観を呈しており、かような道路でデモ行進をすることはデモ行進参加者自身にとつて自殺行為に等しく、その危険たるや絶大である。

かような道路で一度交通事故が発生すればそのため同所における交通が不能となることは勿論、ために中央環状線およびこれに接続する主要幹線道路が広範囲にわたつての、交通停滞を惹起することは明らかである。

(三) デモ行進が外環状道路を通過するに要する時間は、デモ行進が通行する外環状道路部分の距離二・四キロメートルであるので通常のデモ行進においては、進行時速二キロメートル二〇〇名一隊隊間距離五〇メートルとされるのでデモ隊列の長さは四五〇メートルとなりデモの先頭が外環状道路に進入したのちデモの最後尾が外環状道路を離れるまでに茨木駅千里丘陵線と接続する外環状道路の部分を通過するに要する時間は各約三〇分である。(この間は各アプローチ道路から外環状道路への進入は妨げらられるのである。)さらに本件デモが行進する際に外環状道路から西ゲートにおいて連絡道路を横断するのであるからこの間外環状道路の機能はまつたく停止されることとなる。

前述外環状道路における一般交通の停滞状況からみれば、本件デモ行進が実施されることにより、その交通停滞、混乱は極度に達し、さらに本件デモ参加者の大多数が常習としているジグザグデモが行なわれる可能性は強く、さすればその長時間に及ぶ交通停滞、混乱の状況は想像を絶するものがある。

そして右交通停滞混乱はアプローチ道路に及び、さらに名神高速道路、府道高槻京都線等の主要幹線道路の交通を会場周辺においてしや断することになり、その一般交通に及ぼす影響たるや、その範囲、時間、密度において空前絶後のものとなろう。

又かような状況では会場内および会場周辺においての災害、急病人等に対処するための緊急自動車の通行は不可能であると断言しえよう。

(四) 本件デモ参加団体は前述のごとく万博実力粉砕を呼号している点からデモ行進中の状況いかんによつては群衆心理の赴くところ、万国博施設に対し危害の及ぶことも予想され、さらには外環状道路沿いに前述の冷房東プラント、北給油所、北変電所、高圧線立下潜入口、冷房北プラント、西変電所、南給油所、北大阪急行山田変電所等の万博関係重要施設に累が及ぶことも予想される。また変電所には万博施設送電のための高圧配電線変圧器等が設備され七万ボルトを超える電流が送電されているので万一この機能が破壊された場合においては万博全体の運営が麻痺するのみならず、人の生命身体に危害の及ぶ大混乱生じる。

(五) 当日には前述のごとき著しい交通麻痺を来たすと予想される連絡道路、千里一、二号線で本件デモを実施すれば、その交通停滞、混乱は極度に達し、さらに本件デモ参加者の大多数が常習としているジグザグデモが行なわれる可能性は強く、さすればその長時間に及ぶ交通停滞、混乱の状況は異常なものとなろう。

なお千里一、二号線部分あるいはその一部における交通状況は、外環状道路、中央環状線、流出線、連絡道路のそれと若干事情を異にすると認められるとしても、その区間に前述のとおり集合場所を求めることは不可能である。道路上を集合場所とすれば一般交通をしや断し、非常事態を発生するであろうことは言うまでもない。

六 本件デモコースには道交法、吹田市公安条例の適用がある

(一) 北大阪急行電鉄万国博中央口駅前南北コンコースおよび北側コンコースから階下の府道中央環状線北側タクシー乗降場に至る階段は、エスカレーターと共に万国博協会の管理地ではあるが、前述のとおり北大阪急行に乗降車する多数の歩行者が雑踏する場所であつて、道交法二条一号にいう「一般交通の用に供するその他の場所」であることは疑いの余地はない。

(二) また大阪府道中央環状線北側タクシー乗降場は、大阪中央環状線の附属物として管理者が設置したもので右府道と一体となつて効用を全うする施設であつて道交法二条一号にいう道路法二条一項に規定する道路である。

(三) さらに、外環状道路および同道路より西ゲート前交さ点にいたる連絡道路四五〇メートルは、万国博協会が管理し(疎乙第二五号証)現在の時点では道路法による供用開始のなされた道路ではないが、前述の幅員、歩車道の区別等その現況からみても、また、三月十四日以降は、前述のように多数の人員と車両の通行が予定されていることからみても「一般交通の用に供するその他の場所」であつて道交法二条一号にいう道路である。

(四) 右のように北大阪急行電鉄万国博中央口駅コンコース、府道中央環状線、同環状線北側タクシー乗降場、外環状道路および前記連絡道路はともに多数の歩行者、車両等の往来する場所であり、道路もしくは一般交通の用に供する場所である。また、右の場所は万博施設と一体となつて、少くとも市街地を形成したものと認むべきであり、前記のように多数の歩行者、車両等の通行による混雑の予想されることからみても「街路」といつて何ら差しつかえない。したがつて、吹田市公安条例第一条の適用ある場所となる。

(五) なお前述したとおり北大阪急行電鉄万国博中央口駅前コンコース・外環状道路・前記連絡道路はともに現在万国博協会の管理する場所であるが、その管理権と道交法および公安条例にもとずく警察権が競合する場所となるのであるが、このような場合道交法および公安条例の適用を妨たげないことは裁判例においても認められているところである。(広島地判昭和三十九年三月十九日下刑集六巻二六八頁参照)

七 吹田市公安条例の合憲性

申立人は、吹田市公安条例が日本国憲法第二一条の表現の自由保障を侵す違憲の立法であると主張される。

しかし、表現の自由といえども国民はこれを濫用してはならないのであつてつねに公共の福祉のためにこれを利用する責任を負うものであることはつとに東京都公安条例に対してその合憲性を認めた最高裁昭和三五年七月二〇日大法廷判決において判示されているところであり、かつ吹田市公安条例は第四条において「公安委員会は、行進若しくは集団示威運動が公共の安全に差迫つた危険を及ぼすことが明らかである場合の外は、これを許可しなければならない。」として不許可の場合を厳格に制限している点からみても決して表現の自由を侵す違憲な立法といいえない。

集団行動に対する制約は要はそれによつて表現の自由が不当に制限されてはならないことである。このことは前記最高裁判決の明示するところである。

したがつて公安委員会は本条例の対象とする集団示威運動が場合によつては群集心理の赴くところ不測の事態を惹起し、公衆の生命、身体、自由又は財産に対して直接かつ明白な危険を与えるに至ることがあり得ることに鑑み、公共の福祉の保持の観点から諸般の具体的状況を考慮して不許可の処分をなすことができるわけである。

なお、吹田市公安条例を前記東京都公安条例と対比するとき、東京都条例が規制の対象となる集団示威運動が行われる場所に関し「場所のいかんを問わず」として一般的な制限をなしているのに対し、吹田市公安条例は「街路を占拠又は行進する」場合として公安条例の適用される場所を具体的に特定する等の配慮をなしている点で東京都公安条例よりはるかに厳格な内容をもつものであることは明らかである。この点からも東京都公安条例が合憲とされる以上吹田市公安条例もまた合憲であるといわねばならない。

八 集団示威行進と道交法七七条

集団示威行進には道交法一〇条、一一条の適用があり、道交法七七条の適用はないとの意見がある。

しかし、道交法一〇条、一一条は道路についての歩行者の通行という形における、いわゆる道路の自由使用の方法を定めたものであり、同法七七条は、一面において道路の通行と目しうる行為であつてもその性質上「一般交通に著しい影響を及ぼすような」態様の行為については、公安委員会の定めるところによつて、あらかじめ所轄警察署長の許可にかからしめることとしているのである。

いわゆるデモ「集団示威行進」が行為の類型上七七条一項四号にいう一般交通に著しい影響を及ぼすおそれのある行為であることは明らかで、このことは同条が「祭礼行事」「ロケーシヨン」なども一般交通に著しい影響を及ぼすおそれのある類型的行為としてとらえているところからも十分首肯することができよう。

したがつて、集団示威行進が道路本来の自由使用の一形態であり、大阪府道路交通規則(昭和三五年一二月二〇日大阪府公安委員会規則第九号)一五条三号が道交法七七条一項四号の範囲を越えたものであるとする意見は誤りであるといわざるを得ない。

なお、本件申請にかかる集団示威行進が前述のとおり道交法七七条一項四号に該当することは明らかであるから、公安委員会の不許可処分のみの執行停止を求めている本件においては仮りに本件不許可処分の効力が停止されたとしても、道交法に基づく警察署長の不許可処分はそのまま効力を有するものであり、申請にかかる集団示威行進を適法になし得ることにはならないから、その点からも結局本件不許可処分の執行停止を求めることは、法律上無意味であるというべきである。

九 結語

以上一、四、五で述べたところから明らかなように本件集団示威行進は、そのコース全体にわたつて吹田市公安条例にいう公共の安全に差し迫つた危険を生じさせるものというべく、一方、それは、道交法七七条一項四号の一般交通に著しい影響を与える行為であり、かつ、七七条二項にいう許可をしなければならない場合にあたらないというべきである。

したがつて、申立人の本件申立は、本案について理由がないことが明らかなものであり、また、本件申立が認容されるときは、行政事件訴訟法第二五条第三項にいう公共の福祉に重大な影響を及ぼすものというべきである。

よつて、本件申立はすみやかに却下されるべきである。

疎明方法〈省略〉

(別紙三)

意見補充書

申立人は、吹田市公安条例にいう「公安委員会」というのは、吹田市公安委員会を指し、吹田市公安委員会は、現在すでに消失しており、同条例にいわゆる「公安委員会」は存在せず、同条例の許可、不許可を決定する機関は存在しないので、同条例の存在する根拠はない旨主張されるが、右条例にいう「公安委員会」とは、警察法施行令一九条の自治体警察の廃止に伴う警察の事務に関する市町村条例の経過措置により当該市町村を包括する都道府県の公安委員会を指すことになる。

そして、現在なお同条にいう当該市町村または当該市町村を包括する都道府県は、条例で別の定をしていない。

よつて、吹田市公安条例にいう「公安委員会」は大阪府公安委員会を意味し、現に存在することは明らかであるから申立人の右主張が失当であることは明らかである。

(別紙四省略)

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